トーマス・ドリヴァー・チャーチの世界
自動車も、当時の住宅デザインに影響を与えた比較的新しい要素のひとつであった。家屋の配置、駐車スペース、ガレージ、カーポート、歩道、エントランスなど、チャーチの設計ではつねに車について考慮されている。 家に到着するとき、入ってくるときの体験についても、注意深く考えられている。道路や私道から家を見たときにどう映るか、駐車場や玄関はどうか。チャーチは次のように書いている。「到着時の心理というのは、一般的に考えられているよりも重要だ。どこに車を停めればよいか分かりづらかったり、駐車スペースが空いてなかったり、玄関と間違えて裏口から入ってしまったり、エントランスの照明が暗かったりすれば、訪問客に何度も面倒な思いをさせてしまう。そういった感覚は無意識のなかに長くとどまるものなのだ。暖炉がどんなに暖かく、眺めがどんなに美しくても、最初のいらだちによって全体の印象は陰ってしまう。」
著書では、堅苦しいビクトリア朝時代の生活から、第二次大戦後の住宅市場の活況のなかでの、よりリラックスした文化への変化について考察しており、その中には次のような記述が見られる。「広い敷地に厩舎がある住まいから、小さな敷地の、ガレージが家と一体化した住まいへと変化した」「かつて、幼児は長いレースのドレスにくるまれ乳母車に乗せられていたが、裸で走り回る時代になり、子どもが遊ぶための庭が生まれた」「首の上までフリルで覆った洋服からブルーマーへ、そしてビキニへという変化から、日光浴用のテラスが生まれた」。いまや住宅デザインにおいて、屋外を生活空間とするのは一般的だが、私たちが庭を「屋外の部屋」として捉えるようになったのは、チャーチの影響によるところが大きいのだ。
チャーチは、著書『Gardens Are For People(庭は人びとのためにある)』の冒頭で、「合理性の時代においてはいつも、最終的に庭の広さを決め、使い道を決めるのは、その土地の所有者である」と述べている。チャーチはこの最重要原則を、決して見失うことはなかった。
モダンランドスケープを代表するランドスケープアーキテクト、ガレット・エクボは、トーマス・ドリバー・チャーチについて「伝統を受け継ぐ最後の偉大なデザイナーであり、そしてモダニズムで最初の偉大なデザイナーである」と表現している。チャーチは、ランドスケープアーキテクチャーにおけるモダニズムの確立という面で、重要な役割を果たした人物だ。彼が初めて庭を手掛けたのは12歳のとき。母親のために作った階段状の庭が初作品だった。 チャーチはカリフォルニア大学バークレー校で学び、1922年にランドスケープアーキテクチャーの学位を取得。その後、ハーバード大学デザイン大学院に進み、当時ヨーロッパでも米国でも人気の高かった、新古典主義的ボザール様式を学んだ。大学院を出ると、研修奨学金を得てスペインとイタリアへの旅に出る。そして1929年、生まれ育ったカリフォルニアに戻り事務所を開設した。その頃のチャーチのデザインは、スタイルとしてはかなり伝統的だが、その裏には、屋外での生活機能を重視し、自然な景観を活用するという基本原則があった。カリフォルニアで自然を活用するということは、乾燥に強い土着の植物を用いるということになり、これは耐乾性のある庭づくりの先駆けでもあった。木陰をつくり、庭を風から守るという重要な役割を考えて、既存の成木を取り入れることも多かった。 1937年、モダンアートやル・コルビュジェやアルヴァ・アアルトの建築作品を研究するため、チャーチはふたたびヨーロッパを訪れる。そこで、ボザール様式のような中心軸に頼らず、新たな見方でデザインをとらえるキュビズムやコラージュといった手法を学んだ。チャーチはモダニズムの流れを大胆に取り入れて、配向や眺望の重視、家屋の配置、メンテナンスの容易さ、機能と造形美のための成木の活用など、両方のスタイルからの考え方を統合していった。チャーチは、形態と機能がみごとに調和した住宅庭園を数多くデザインしたほか、《ゼネラルモーターズ技術センター》のような大規模なランドスケーププロジェクトも手掛けている。スタイルや規模の大小にかかわらず、チャーチが最優先したのはクライアントのニーズであった。そのニーズと土地の自然環境から、デザインを導き出していったのだ。 The Cultural Landscape Foundation 保存 メール チャーチの作品として最も有名なのが、カリフォルニア州ソノマにある《ダネル邸庭園》(1948年)だ。アメリカでいちばん有名な住宅庭園と言えるかもしれない。第二次大戦後による好況の時代、『サンセット』誌がとりあげたカリフォルニア流スタイルが大流行したが、この庭園はその典型的な一例でもある。 よくあるインゲンマメ型のプールだなあ……思われるかもしれないが、実はこの庭のプールこそが、そのオリジナル。この形のプールを発...
建物と構内全体とを結びつけるグリッド構造に従い、建物に沿って木が1列に並んでいる。 トーマス・ドリバー・チャーチの残したスケッチや著述は現在もその価値を失わず、研究・参照され、ランドスケープのデザインや理論に影響を与え続けている。 参考資料・文献 〈文化的ランドスケープ財団〉
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