矢板 正明
都心に近く、利便性がありながら、緑も多く残る古くからの閑静な住宅地。そんな住宅街にある生まれ育った土地に、新たに家を建て直し、家族4人で暮らすことを決意したAさん。設計を依頼されたのは矢板建築設計研究所の矢板久明さんと直子さんだ。土地はバス道路に面した交差点の角地。設計にあたり、Aさん夫妻から「以前の家は、バスやトラックが通るたびに揺れ、騒音も気になりました。それをまず解決して欲しい」との希望があった。さらに、音楽を愛するご主人がコレクションする大量のCDやレコード、そして料理や季節のしつらえなど丁寧な暮らしを実践する奥さまの食器やキッチンツールなど、所有するものと収納したい場所をリストにした、詳細なリクエストがあったとか。また、子供部屋をどこに持ってくるかについても、Aさん夫妻と検討を重ねたそう。矢板さんはそれらにひとつひとつ丁寧に向き合い、Aさんの想いをくみとって、使いやすさや機能性はもちろん、もっと大きな意味での暮らしやすさを実現するプラン、デザインを提案。こまやかさとおおらかさが共存した、家族が仲良く暮らせる住まいが完成した。 どんなHouzz? 家族構成:夫婦、子供2人 所在地:東京都目黒区 延床面積:106平方メートル 構造:半地下がRC造、1階・2階が木造 竣工:2011年 建築設計:矢板建築設計研究所(矢板久明・矢板直子・渡辺朋恵) 構造設計:構造設計社(杉浦克治) 設備設計:島津設計(島津充宏) 撮影:小川重雄(別記のあるもの以外) 矢板建築設計研究所 メール 保存 玄関のある正面から見ると、まるでハウス型をした素焼きのポットのような、愛嬌のあるシルエット。北側斜線制限によって左右異なる屋根勾配をそのまま活かし、デザインされている。大通りに面した正面側には、亜鉛メッキで縁取られた玄関と出窓が立体的に配され、出窓はサッシレスにすることで、単なる窓というよりもまるでオブジェのような存在となり、より意匠的かつ街に対して開かれた印象を与えている。ここにはAさんがクリスマスやお節句など、季節のしつらえを施し、道行く人をも楽しませている。 矢板建築設計研究所
細かいリクエストをかなえつつ、実にのびやかな空間に仕上がったAさん宅。暮らし始めて時間が経過したのちも変わらず、このすっきりとした状態を保っているとか。 「私たちが設計する家は、一戸一戸が構造から何からまったく異なります。それは、家というものが住み手にとって一番自分らしくいられるようなデザインであるべきだと思うから。住み手の生活を支える器としてどうあるべきか? どうしたらより豊かな生活を送ってもらえるのか? それぞれの住み手にとっての最善の回答を考え、見つけながら毎回設計をしています」と矢板久明さん。「クライアントさんからは、家ができてから人を招くようになった、旅行に行かなくなった、家族が仲良くなった、元気になった……なんていうお話をよく伺います。それこそ、設計者冥利に尽きるな、とうれしくなります」と矢板直子さん。 あくまで主役は住み手。自分達のデザインを押し付けるのではなく、そこに住まう家族の幸せな暮らしを願い、それを育む器をカタチにする。建築家と住み手はかくあるべき、と改めて感じる住まいである。
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