シュレーダー邸
中に入る前に、説明のためにいくつか図を見てみよう。こちらはリートフェルトによる不等角投影図で、2階の間取りを描いたものだ。中央の階段と4分割された長方形のフロアプランが見えるが、とくに強調されているのは、シュレーダー・シュレーダーと協力してデザインした色鮮やかな造作家具だ。 ふたりの協働関係については先にも述べたが、それは家の使われかたにまで及んでいた。シュレーダー・シュラーダーは、1985年に95歳で亡くなるまでの60年間をここで暮らしている。そのうちの数年間、リートフェルトはこの家の一部をオフィスとして使い(竣工から1932年まで)、その後、1958年に妻に先立たれてから亡くなるまでの6年間はここを住まいとしていた。リートフェルトの死後、シュレーダー・シュラーダーは20年にわたり、家の歴史をまとめ、一般公開に向けて財団に家の所有権を渡し、修復工事を計画するなど、この住宅を重要建築として保存するための活動に取り組んだ。修復工事は彼女が亡くなって2年後に完成している。
シュレーダー・シュレーダーから、3人の子どもたちと暮らすための小さな家の設計を依頼されたとき、リートフェルトはまだ建物を設計したことはなかった。しかし家具デザイナーとしてはよく知られており、とくに有名な《レッド&ブルー・チェア》は、1918年に構造のデザインを、1923年に特徴的な色使いを完成させている。 座り心地がよさそうとはとても言えないが、デ・スティルの理想とするグラフィックを体現した椅子だ。大きな平面が赤と青に塗られている一方、構造とアームを構成する木材は黒で、先端断面が黄色でハイライトされている。黄色の部分があることで、まるで実際に抽象的な黒い線を切り取って椅子を組み立てたかのように感じられる。リートフェルトの椅子と、モンドリアンの絵画とのつながりは明らかだ。
1918年11月、アーティストのテオ・ファン・ドースブルフが主宰する芸術雑誌『デ・スティル』を中心とするグループは、伝統を打ち捨て、建築・彫刻・絵画の有機的な融合を推進するための8か条からなる、最初のマニフェストを発表した。オランダ語で「スタイル」を意味するデ・スティルという名前には、新しい方向性を目指していることだけでなく、個人よりも普遍性を優先する意思が示されている。芸術運動としても雑誌としても、デ・スティルはファン・ドースブルフが亡くなった翌年の1932年まで存続した。著名なメンバーとしては、アーティストのピエト・モンドリアン、建築家のJ・J・P・アウト、ヘリット・リートフェルトらがいる。 デ・スティルの理想が最良のかたちで現れた建築として挙げられるのは、やはりリートフェルトが設計したシュレーダー邸だろう(現在はオランダのユトレヒト中央博物館が運営するリートフェルト・シュレーダー邸となっている)。建築・彫刻・絵画の融合という理想は、平面の扱い方、可動式間仕切りでフレキシブルに広がる空間、原色の色づかいなどに現れている。多くの名建築と同様に、こちらも建築家とオーナーとのあいだに良い関係性があってこそ誕生した住宅である。 リートフェルト・シュレーダー邸とは? 竣工年:1924年 建築家:ヘリット・リートフェルト 所在地:オランダ、ユトレヒト 見学情報:オーディオツアー、ガイド付きツアーあり(英語サイト) 規模:111.5平方メートル こちらもあわせて 名作住宅:ルドルフ・シンドラーの住宅建築絶対に知っておきたいモダニズムの傑作住宅10選 名作住宅シリーズ サヴォア邸/ファンズワース邸/落水荘/イームズ邸/グラスハウス/ロヴェル・ビーチ・ハウス メール 保存 デ・スティル運動は普遍性を追求していたが、リートフェルトがトゥルース・シュレーダー・シュラーダーのために設計したこちらの住宅は、極めて個人的なプロジェクトである。オーナーは3人の子どもを持つ未亡人で、19世紀のブルジョワ的伝統から離脱する家をつくりたいと思い描いていた。これは、1923年に夫を亡くす以前、リートフェルトに依頼してアパートメントを改装したころから抱いていた考えであった。 また、オーナーが設計に参加しているという面でも、パーソナルな性質のある家である。インテリアに使われている造作家具は、オーナーとリートフェルトが協働してつくったもので、この家のとくに重要なポイントとされる可動間仕切りも、彼女のアイデアであった。
さらにドラマチックに変化するのは、先ほどの写真の視点から90度横を向いたこちらの眺めだ。ふたつの居室兼ベッドルームが、ひとつの空間に変わる。 《シュレーダー邸》は、予約のうえ見学可能。2000年にはユネスコ世界遺産に登録されている。 参考文献 Banham, Reyner. Age of the Masters: A Personal View of Modern Architecture. Harper & Row, 1975. Conrads, Ulrich, ed. Programs and Manifestoes on 20th-Century Architecture. MIT Press, 1994 (first published in 1964). Curtis, William J.R. Modern Architecture Since 1900. Prentice-Hall, third edition, 1996 (first published in 1982). Overy, Paul. The Rietveld Schröder House. MIT Press, 1988. Rietveld Schröder House, Centraal Museum Trachtenberg, Marvin and Hyman, Isabelle. Architecture: From Prehistory to Post-Modernism. Harry N. Abrams, 1986. UNESCO World Heritage Centre
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